長崎地方裁判所 平成7年(行ウ)1号 判決
原告
松尾林蔵
被告
佐世保市議会議長 小川康人
右訴訟代理人弁護士
清川明
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 本件の争点のうち、本条例の存在を前提としても、およそ同市議会における委員会会議録一般が公開の対象とならないかどうかの点について検討する。
1 本件において原告が公開を請求しているのは委員会会議録であるところ、前記のとおり、同市議会は本条例を制定しており、これは、議会情報の公開に関し必要な事項を定めることにより、市民の市政への参加を推進し、より一層公正で開かれた議会運営の実現を図り、もって市民生活の向上に資することを目的とする(第一条)から、同市議会は、その具体的な解釈、適用の場面にあっても、右目的の趣旨を十分考慮したうえ、できるかぎり広汎な議会情報の開示をなすべきものと考えられるが、他方で、議会情報のなかには、未だ意思決定の一過程にあって議会内部での十分な検討、協議がなされていない未成熟な情報や精度の不確かな情報が含まれている場合があり、これらの情報が公開されると、住民に無用な誤解や混乱を与えたり、一部の情報利用者のみに利益又は不利益をもたらし、あるいは委員会及び本会議における自由かつ率直な意見交換を妨げ、議会内部での検討に必要な資料が得られなくなるといった弊害を生ずるおそれがあることも否定することができない。そしてこのような弊害が生ずることを避けるために本条例第九条第四号ア(「市の機関内部若しくは機関相互間又は市の機関と国若しくは他の地方公共団体(以下「国等」という。)の機関との間における審議、検討等の意思決定過程における情報であって、公開することにより、公正又は適正な意思決定に著しい支障を生ずるおそれのあるもの」)及び同条第八号(「その他公開することにより、議会の公正かつ円滑な運営に著しい支障を生ずることが明らかであるもの」)の各規定(いずれも乙一)が設けられたものと解され、これら各条項の趣旨を総合すれば、「著しい支障を生ずるおそれ」があると認めるためには、前記のような弊害が生ずる客観的で具体的な危険性、可能性が存在することを要し、かつ、それをもって足りるものと解される。
2 そこで、本件非公開決定の適否を検討するに、被告は、委員会会議録一般が、前記の意思決定過程文書に該当し、しかも、これを住民に公開することにより「著しい支障を生ずるおそれがある」として、これらを一括非公開とする立場から本件非公開決定を行ったものであるところ、地方自治法第一一五条第一項によれば、普通地方公共団体の議会の本会議は、公開されなければならないが、同規定による会議公開の原則は、普通地方公共団体の常任委員会(同法第一〇九条)や特別委員会(同法第一一〇条)等の委員会が、議会の分科的審査機関であることなどから、その設置の趣旨に鑑み、その調査・審査等には適用されないし、また、通常、この会議公開の原則に関わって、会議録の調製、保存、公開及び頒布等の諸態様が規定されるべきところ、同法第一二三条は、普通地方公共団体の議会の本会議の会議録の調製について規定するが、同法条は右委員会等には直接適用をみるものではない。また、全国六六三市のうち、情報公開条例を制定している市は一五九市(二三・九パーセント)であり、何らかの形で議会情報の公開条例を制定している市は一二一市(一八・二パーセント)であり、その一二一市のうち、委員会会議録を公開している市議会は、九一市で、それが全国六六三市に占める割合は一三・七パーセントである(この点は明らかに争われない。)。このような法的状況の下においては、同法上、委員会の公開の有無、程度のいかんについては当該地方議会に一定範囲の自主自律的な判断権が留保されているというべきである。
そして、委員会は、議会の予備的審査機関として条例案その他の議案の立案のため調査及び審査を行い(常任委員会、同法第一〇九条第三項)、あるいは、特に重要な案件につき審査する(特別委員会、同法第一一〇条)機関として、その調査・審査対象は議会における意思決定の初期段階を担うことも多く、委員会における議論を充実させようとするならば、情報の成熟性や精度のいかんはとりあえず措くとしても、でき得る限り新しい情報、資料を広汎かつ多元的に収集、検討し、さまざまな可能性をも視野に入れた自由かっ達な議論をなす必要があるのであって、こうした情報、資料それ自体やこれらを素材としてなされた委員会の審査、調査の経過、内容を開示の対象とするならば、既述のような諸々の弊害が生ずるおそれが、それ相当程度認められるというべきである。この点、委員の委員会における発言が公人としてのものであれば、自由かっ達な意見の交換が阻害されることはないとの前記原告の主張は、右のような委員会の審査、調査の特質についての理解を欠くものといわざるを得ない。
しかも、委員会会議録について、同市議会委員会条例第二七条第一項が、「委員長は、職員をして、会議の概要、出席委員の氏名等必要な事項を記載した記録を調製させなければならない。」と規定(乙四)し、実際にも、同市議会においては、その委員会会議録は、全文筆記ではなく、会議の概要を記録筆記する要点筆記という記録方法を採用しており(この点は明らかに争われない。)(ちなみに、右のような記録方法の採用は、当然、同市議会自らの判断で行われるべきものであって、それが、本条例第三条第二項の「議会は、議会情報の適切な保存と迅速な検索に資するため、議会情報の整備に努めるものとする。」との規定(乙一)の趣旨に反するものでないことは詳論するまでもない。)、委員会における審査の経緯、内容は、会議録から逐語的に明らかになることはないから、成熟性や精度のいかんに疑問がある情報、資料であれば勿論のこと、たとえこれらの点で問題のない情報等であっても、こうした不完全な会議録を通じて不正確かつ意を尽くさない形で住民に伝えられる可能性が高いことは否定できない。本条例第二条第二項は、このような議会情報の公開までを要求するものではなく、原告の主張するところは、この点においても失当である。
以上の事情を総合考慮すれば、同市議会の委員会会議録一般につき、これらを公開するならば、前記の諸々の弊害を生ずる客観的かつ具体的な危険性、可能性があるということができ、被告が、公開により「著しい支障を生ずるおそれ」があると判断したことも前記の地方議会に留保された自主自律的な判断権限を超えて著しく不相当であるとはいえず、しかも、同市議会においては、委員会の審査概要は、委員会委員長報告として本会議会議録に記載され、間接的とはいえ右会議録を通して公開のための方途も開かれている事情を併せ考慮するならば、被告がなした本件非公開決定が違法であるとはいい得ない。
二 本件の争点のうち、本条例の本件委員会会議録を非公開とすることができる旨の規定に基づいて公開の対象とならないかどうかの点について検討する。
すなわち、本件委員会会議録中には、西海パール・シー株式会社の法人情報及び役員の個人情報があり、これを公開すると同会社、役員の活動利益を害するおそれがあり(この点は明らかに争われない。)、右のような事情は、本条例第九条第三号の「法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下この号において「法人等」という。)又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより当該法人等又は当該個人の活動利益を害することが明らかであるもの。…」との規定(乙一)に該当するものというべきである。
また、前記のとおり、その委員会会議録は、会議の概要を記録筆記する要点筆記という記録の方法を採用していて、委員会における審査の経緯、内容は、会議録から逐語的に明らかになることはないから、自ずから、公開しない議会情報とそれ以外の議会情報とが併せて記録されていて、公開しない議会情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ、かつ、分離したことにより公開請求の趣旨が失われることがない場合に該当するものとは到底認め難いであろうし、本条例第一〇条(「議会は、公開の請求に係る議会情報に、前条各号の一に該当することにより公開しない議会情報とそれ以外の議会情報とが併せて記録されている場合において、公開しない議会情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ、かつ、分離したことにより公開請求の趣旨が失われることがないと認めるときは、公開しない議会情報に係る部分を除いて、当該議会情報の公開をするものとする。」)の規定(乙一)により、本件公開請求についても法人の活動利益を害するおそれのある情報を除いて公開すればよいなどということはできない。そうすると、以上によっても、被告がなした本件非公開決定が違法であるとはいい得ない。
三 結論
よって、本件非公開決定は、適法であるから、原告の請求は理由がないことに帰する。
(裁判長裁判官 江口寛志 裁判官 大島明 鹿島秀樹)